ヒトのこころ、ロボットのかたち

オリィ研究所

Ⅰ.背景

アントレプレナーシップ論講座オープンスクールでは、毎年、「経営者のアントレプレナーシップ」を学ぶために、ベンチャー企業の社長にご協力いただき「企業課題」という活動を行います。

今回、講座へのご協力をお願いするために、3月27日、講座メンバー三人で「株式会社オリィ研究所」を訪れました。

 

Ⅱ.オリィ研究所について

オリィ研究所は、「人の孤独を解消する」という理念のもとにヒト型コミュニケーションロボット「OriHime」を開発している会社です。社長の吉藤健太朗さんが幼少期に不登校になり孤独に苦しんだというご自身の経験から、同じように「孤独」を抱える不登校の生徒や入院中の患者、体の不自由な方々のために「OriHime」を開発されたそうです。

最近流行りの人工知能(AI)を使った自律型会話ロボットでは、ロボットと会話することで一時的には孤独を紛らわすことはできるかもしれない。だが、それでは孤独を解消することはできない。人とロボットを繋ぐのではなく、「人と人を繋ぐためにロボットを活用する」それが「OriHime」と従来のロボットのコンセプトの大きな違いです。

「OriHime」はPCやiPhoneを使って遠隔操作できるロボットで、画面を通してロボットの見ている景色を見ることができ、首の上下左右の運動や手を使った簡単な動作を行うこともできます。利用している側は、自分が実際にロボットにのり移ったかのような感覚に陥り、一方でロボットを見ている側からは、まるで当人がそこに存在するかのような錯覚に陥ります。この「存在感」こそが孤独を解決するための大きな鍵になると社長は言います。

人は社会の歯車でもいいから誰かの役にたっていたい。誰かのために、社会のために生きるからこそ「存在する」ことができる。病気や老い、特別な事情で社会に接することができない人々に、「OriHime」という自分の「分身」となるロボットを利用してもらい、社会と繋がる機会を提供する。それが吉藤さんの考え。

例えば、顎しか動かすことのできないALS(筋委縮性側索硬化症)の患者に、顎で操作する特殊なタッチペンを用いて「OriHime」を使って名刺作成の仕事をしてもらう。それだけでもALS患者たちの間ではスーパースター、希望の星です。なぜならALSの患者たちが仕事をして社会と繋がるようなことが今まであり得なかったからです。

情報が価値を持つ社会から「存在感が価値を持つ社会」へと変容していくなかで、いままで社会に関わることのできなかった人たちに希望を与えるような、「社会の中での存在感を生み出す」事例をもっと増やしていきたいと吉藤さんは語っておられました。

 

Ⅲ.代表の吉藤さんについて

さてここで代表の吉藤さんについて、私がアントレプレナーシップを感じた点を何点か挙げてみます。

 

  • 理念が明確である

「孤独を解消する。」ご自身の体験から生まれてくる解決したい課題が明確でした。さらに情報が価値を持つ社会から「存在感が価値となる社会」に変遷するという環境に対する考察

も鋭く、将来像がはっきりしておられました。

 

  • 誰よりも現場を知っている

「OriHime」を利用している患者の下に訪れては、患者の細かい要望に応えて、その場で改良を行ったり、追加機能を開発したりしているそうです。またインターン生を採用した場合には、まずは「現場」に向かわせ、インターン生ではなく一人の個人として患者と信頼を結ぶところから始めさせるとのことでした。誰よりも現場をよく知っているからこそ生まれてくる言葉に強い説得力と自信を感じました。

 

  • プレゼンが上手すぎる。

10分程度の短いプレゼンを聞きましたが、あれを聞いて感動しない人はいないでしょう。人に自分の理念やビジョンを共感してもらう能力は、経営者として必須のスキルになると思います。しかし実はスキル云々の話ではなく「揺るぎない理念」と「その理念のもとに行われた行動」が否応なく人を納得させ、共感させるのだと身をもって体験しました。恐れ入りました。

吉藤さんは、何度もビジコンに参加されその都度数々の賞を獲得されていますが、曰く「ビジコンは本気度・熱意の勝負。負けるわけがない」そうです。ビジコンに参加する場合は、事業を詰めるよりも自己暗示してでも本気度を示す方がいいかもしれませんね。

 

  • こだわりが強い。

「黒い白衣」というファッショナブルかつ機能性あふれる自作の白衣を身にまとい、如何にこの白衣が素晴らしいかも熱弁していただきました。「OriHime」の顔面デザインもご自身で設計されており、「能面」の要素を取り入れることで、誰が見ても最初は無表情な顔面が利用していくにつれて画面越しで操作している「本人」に見えてくるという効果を狙っているそうです。「分身」というコンセプトへのこだわりを感じました。

「孤独を解消する」ためのロボットコミュニケーションというコンセプトも5年前は周囲から理解を得られなかったそうです。ようやく理解されるようになってきても「社会が勝手に変わっただけで自分の理念や活動はまったく変わってない」と自身の強固な信念を語っていただきました。

 

  • オフィスが散らかっている。

会社は三鷹駅からすぐ近くの小さなビルの一室にオフィスを構えており、オフィス内もロボットの機材や3Dプリンターなどで散らかっていました。さながら実験室といったような様子でした。さらにオーダーメイドで機材を作っている(現在、生産体制を海外で準備中)ので、オフィス近郊にある自宅のガレージを工作室として活用しているそうです。どこかで聞いたような話だなと思いました。

 

Ⅳ.学び

私が大切だと思ったことを抽象化して簡単に整理してみます。

  • 社会が抱える問題を、自身の原体験や経験を基に湧き上がってくる「自分だけの言葉」で定義して、真の課題を明確にすること。

⇒他人の言葉を自分の言葉だと錯覚してはならない。

 

  • その課題を解決するために「一人で」とことん考え抜いて、とことん行動してみること。

⇒一番大切な理念の部分などは自分だけしか作ることはできない。

他人の意見を混ぜすぎると、ありきたりで陳腐な理念になる。

 

  • 課題を解決するために、必ず問題が起きている「現場」に足を運び、声を汲み取ること。

⇒現場を知らずには課題を解決することはもちろん、課題の特定もできない。

 

  • 「自分が必要でなくなる社会」=「課題が解決され、自分の想いが当たり前になった社会」を目指し、社会へ自分の想いを伝達させ、増幅させるために「企業」にする。

 

たった二時間程度のお時間でしたが本当に多くのことを学ばせていただきました。

オリィ研究所訪問