新しさの生み出し方  〜アントレ2007年リユニオンの報告〜

今回のアントレリユニオンは2007年。2007年の卒業生だけでなく、卒業生の友人も参加され、15名の方にご参加いただきました。まず主催の柴田さんから2007年の当時の取り組みと現在の講座の様子の説明がありました。2007年当時は、東京大学から独立してオープンスクール化した最初の年で、まだ会場を確保するのも一苦労でした。また大田区の中小企業の株式会社マテリアルの工場見学など教室の外に出かける行事もあったようです。

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当時と現在のアントレの紹介をした後、2007年受講生の飯塚希翔さんの取り仕切りで、参加者が現在どのような方面で活躍していらっしゃるのか簡単に自己紹介していただきました。参加者中には、自動車のテストドライバーとして働いていらっしゃる方やNPOとして教育方面で事業を展開しようとしていらっしゃる方もいて、自己紹介で大いに盛り上がりました。

 

2007年受講生 森山大器さん(トーマツベンチャーサポート)

「新しさの生み出し方」

 

今回は2007年受講生で、現在トーマツベンチャーサポートに勤務していらっしゃる森山大器さんより「新しさの生み出し方」についての講演をしていただきました。

アントレを受講した次の年に、戦略系コンサルティング会社のボストンコンサルティンググループにご就職され、その後イリノイ工科大学Institute of Designに留学されました。今回、イリノイ工科大学で学ばれたデザイン思考を中心にお話いただきました。デザイン思考とは、一般的なデザインファームが行っているプロダクトデザインの発想よりも、さらに包括的に「事業全体をデザインしていく発想」です。デザインスクールでは、いわゆるデザインを学ぶのではなく、「デザイナーが自然体で用いるイノベーションを生みだす手法を非デザイナーの人でも利用できるように再現可能化・体系化した法則」から、事業全体をデザインする方法を学びます。デザイン思考の視点から、新しいものの生み出し方について説明いただきました。

その内容を詳しく説明すると、イノベーション創造プロセスの全体像としては、

①事業の構成要素の理解

②新しさの創造

③コンセプトテスト

④事業内容の伝達

があります。

今回は①、②について説明していただきました。

①事業の構成要素の理解

この事業は何のために、どのように、何を、誰に提供するのか明確にすることが重要です。これは言葉としては簡単なのですが、意外とすべての構成要素を考えられていない起業家が多く、ベンチャー企業の事業の失敗原因はこの構成要素を理解していないことから起こる事が多いです。

事業の構成要素として抽象度の高い順に

1 Why 理念・ミッション:なぜこの事業を行うか?

2 How 事業概要:どのような事業を展開するか?

3 What 製品概要:何を製品とするか?

4 Who 顧客概要:顧客は誰か?

となります。

この全てを一人の起業家がすべて把握しておくことは難しいことです。それぞれの思考の特徴によって、どこかの視点がかけていることが有ります。それをパターン化してみると、

(1)ビジョナリー型

「Why」について強いビジョンを有していて人を引き付ける経営パターンです。(ex スティーブ・ジョブズ)ただ、顧客価値の把握や製品を作り出す能力に欠けている場合があるため、そこを補う必要があります。

(2)アナリスト・技術者型

「How」、「What」から分析を始めて、事業を行おうとするパターンです。コンサルタントや技術者がこのパターンの場合が多いようです。手元にある技術や市場分析の結果をもとに製品開発を行うのですが、顧客理解が疎かになっている場合があります。また、なぜこの事業を行うかという理念やビジョンがない場合があります。理念やビジョンは他人が作ることが出来ないので、自分で作りあげる必要があります。それは多くの場合、困難を伴います。

(3)デザイナー型

顧客のニーズを反映した製品を作り出すことが得意です。しかし、顧客を見すぎてしまい、理念が疎かになりやすく、大きな事業として何をするのか、起業家として何がしたいのかの方向性がぶれやすいのです。リーンスタートアップの手法を取るとこの形の問題が起こりやすくなります。

 

参加者からは、下記のような質問が出ました。
Q:結局理想形はどれなのか。

A:全ての要素をバランス良く持っているのがもちろん良いが、どこかに偏りがある事自体は人間なので仕方がないことであり、むしろ自分がどのタイプなのかを認識することで自分にないものをチーム全体で補完していくという考え方が重要。事業をデザインしていく上では、まず「Why」と「Who」の観点を突き詰めてそこからサンドイッチのように「What」や「How」を考えていくのが最善手だと思われる。
Q:どうやって「Why」を創りだしていけばいいのか。

A:「Why」は「自身の原体験に強く依存する」ため、自分で見つけ、磨いていくしかない。その方法としては、自分の過去を振り返り、自分がどのようなことにこれまで価値を感じてきたのかを見出すことで、自分が人生をかけて取り組みたいと思える対象が何かを探るという作業をじっくりやる必要がある。このようなアプローチを経ずに、例えば「お金儲けがしたい」「なんとなくかっこよさそう」など自分の深い内面に基づいていない「Why」を設定している場合は、事業が苦しくなった時に踏ん張りが効かず、すぐに事業を止めてしまう傾向がある。支援家の立場としてできることは、カウンセラーのように内面を探る上での壁打ちの役割を果たすことだが、深い内面に関わることになるので信頼感が必要。
Q:どうやって「Why」を伝えていけばいいのか。

A:「何を」「どうやって」伝えるかの問題になる。「どうやって」という部分についてはクラウドファンディングやWantedlyなどのサービスが充実してきているが、「何を」の部分にあたる理念(「Why」)ついては、より人から共感されやすい理念へと落とし込み、自分で洗練させていくことが求められる。

 

②    新しさの創造について

「新しさ」といっても求める新しさのレベルによって方法論が異なります。まず、「無意識にやっているが誰も気づいていないことを見出す」というやり方があります。すでに誰かが無意識にやっている方法を体系化したものなので、打ち手の導入が比較的容易です。このようなヒットレベルのイノベーションは米国を中心としたイノベーションファームがコンサルティングの形で提供していますが、一定の効果を再現性ある形で見込めるので、不確実性が低いという点で大企業の経営者としても受け入れ安いという背景があります。
「まだ誰もやっていない新しさを生み出す」方法にはまた別のアプローチがあります。

(1) 無意識にやっているが、誰も気が付いていない「新しさ」の追求方法:ビックデータ、行動観察、行動経済学、海外のコピー)

まず、一つ目の「ビッグデータ」が挙げられました。その例として、ビッグデータを活用した「House of Cards」という海外ドラマが取り上げられました。このドラマは動画配信サイトの顧客情報というビックデータから「どんなドラマを見たいかのニーズ」を徹底的に分析・計算して作られたドラマですが、全米でトップ視聴率を獲得する人気ドラマになりました。

二つ目は「行動観察」です。この例として、駅のホームにある自動販売機の売り上げを上げるという方法を考えてみてくださいというものを取り上げました。IDEOが提供した答えは「自販機に時計を設置する」というものだったのですが、これはターゲットとなる顧客層の行動観察に1か月を費やし、「駅のホームでドリンクを買おうとする人は、次の電車が来る時間を心配する」という洞察を見つけだしたことに基づいています。この結果として売上が大きく向上したとのことです。

三つ目は「行動経済学」が関係します。これは、「根本的に人間は非合理的で面倒くさがり」という性質を用いた方法です。例えば臓器のドナー登録について、「登録が任意」である日本とデフォルトでドナー登録がなされ国民は「任意で登録を解除できる」という国とを比較すると、後者の方が、「面倒くさがって登録を解除しない」という行動原理が働くために、圧倒的にドナー登録割合が多くなります。このような行動原理を活用した例として、携帯キャリアの「最初の○○ヶ月無料」のオプションがあります。無料期間を過ぎても実際には顧客が登録解除をしない割合が高いため、大きな収益源となっています。

最後に「海外のコピー」です。日本で起きたイノベーションが実は海外で過去に起きたイノベーションが時間を経てコピーされたものだった、という場合も多かったりします。ソフトバンクの孫正義さんの「北米で成功した事例は日本にも必ずやってくる」という「タイムマシン経営」のように、海外で行われた成功事例を基にして考えることはアイデアの探索として有効なようです。

 

(2) まだ誰もやっていない「新しさ」の追求:バイアス崩し、アナロジー、異なる組み合わせ

まだ誰もやっていないというレベルでの新しさでは「バイアス崩し」という手法がとられます。例えばUSBを生みだした濱口秀司さんが挙げられます。大容量化したデータがフロッピーディスクに入らなくなりつつあり「これからは大容量のデータをネットワーク経由で流す時代になる」という業界の常識がありましたが、濱口さんはそのバイアスを崩し、あえて実物で大容量のUSBを作るに至ったそうです。こういった「自分がとらわれている常識を見える化し、それを崩していく」というバイアス崩しの方法はGoogleなどでも盛んに採られています。

二つ目には、「アナロジー」があります。例えば、子供の頃にガチャポンに熱中した人もいるかと思います。このガチャポンのアイデアをアナロジーしたのは、ソーシャルゲーム業界のDeNAやGREEです。ガチャポンに熱中する気持ちをソーシャルゲーム内で活用し課金を促進させるという方法をとっています。

三つ目に、「異なる組み合わせ」があります。例えば、今話題の自動運転はイスラエルの誘導ミサイルの技術が活用されています。誘導ミサイルで使われている追跡技術を開発するイスラエルのスタートアップと欧州のカーメーカーが共力することで、自動運転というイノベーションを生み出すことができました。

異なる組織の組み合わせによっても、誰もやったことのない新しさが生まれてくるようです。トーマツベンチャーサポートでは、大企業とベンチャー企業のマッチングを行うための「Morning Pitch」と呼ばれるイベントを主催しています。これは、自社内で新規事業が生みにくい大企業がベンチャー企業と連携して新規事業を創造したいというニーズと、ベンチャー企業が大企業のリソースを活用することでさらなる事業拡大をしていきたいというニーズとを結びつけるマッチングイベントです。[1]

さて、こうした新しさを生み出すことはもちろん重要なのですが、一方で、そうした新しさを人々に受容させることがより重要となります。新しさを受け入れてもらうためには既存のものよりも約10倍良くなければならないという法則があるそうです。「今使っている製品や手段を捨てること」に3倍、また、同時に「新しいものが失敗してしまうリスク」に対しても3倍の3×3で約10倍もの優位性を求めるという研究結果が出ているそうです。

 

今回の講演で話のあった「イノベーションの方法論を体系化し、誰もが再現できるようにする」というデザイン思考はとても参考になりました。また、「流行りのリーンスタートアップ型事業では成功例も多いが、小粒になりがち。Whyという理念の部分がぶれやすく次の事業に繋がっていかない可能性も高い」といったお話など普段聞けない内容を聞くことができて非常に為になりました。

 

(本記事作成:中山淳二 / 2014年 受講生)

[1] http://morningpitch.com/

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